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■『戦旗』1676号(3月20日)4-5面 「孤立出産」に追い込む技能実習制度 無罪の実習生を支援しよう 九州山口地方委員会 「妊娠したら帰国させる」と嘘 ベトナム人技能実習生Gさん(二〇歳)が二四年二月二日、福岡市博多区の知人の部屋で一人でこどもを死産しました。Gさんは来日前に送り出し機関から、妊娠すれば帰国させられると説明を受けました(法的根拠はありません)。ベトナムにいたころからすでに妊娠していたのですが、それに気づかないで二三年七月に来日しました。一カ月の監理団体の研修では、男性の部屋に行ったり休みに遊びに行ったりしては仕事に差しさわるのでしないようにと男女交際禁止の指導をうけています。Gさんは、食品会社で実習を始め、一二月ごろ妊娠に気づくも「妊娠がわかったら、帰国しなければならない」と教えられていたために誰にも相談できず、一度も産婦人科にかかることもできませんでした。二月二日午前中に陣痛で会社を早退し道端で苦しんでいるところを通行人に介助され、どこへ行くべきかも判断できず、唯一知っている交際相手宅に行き、孤立出産に至りました。 「死体遺棄罪」で不当逮捕 こどもは死産だったため出産は困難で、体力的にも精神的にも疲労困憊している中で、幾度となく気を失いながら、こどもの遺体をビニール袋に入れ、座り込んでいたそばにあったゴミ箱の中に遺体を置きました。おびただしい出血があり、貧血状態で動けなくなりました。その日の夕方、帰宅した交際相手に付き添われて病院に行きました。病院が警察に通報し、二月六日には福岡県警に死体遺棄容疑で逮捕されました。検察官はGさんのこの行為が死体遺棄罪に当たるとして二月二七日に起訴しました。 Gさんは、第一回公判から一貫して無罪を主張し、元気になり戻ってきたら、交際相手などに話をして、こどもの遺体の埋葬について相談して決めるつもりだったのであり、こどもを投棄する考えはなかったと主張しました。Gさんは多額の借金(一五〇万円)をして来日してきたこと、送り出し機関から「妊娠がわかったら、帰国しなければならない」と聞かされて誰にも相談できなかったこと、病院にかかれば監理団体に知られて帰国させられることを恐れたと証言しました。 出産支援制度があることを伝えない管理団体 過去六年間技能実習生の妊娠届数は二〇〇〇件を超え、妊娠を理由に大半の実習生が帰国させられています。そのうち職場復帰できたものが三七件だけです。妊娠で、実習生は帰国に追い込まれてきたのです。監理団体は出産後に実習再開ができることや、出産に伴う六〇万円の一時金支給などの支援制度があることを教えていません。もし妊娠してもだいじょうぶ、出産は可能で、その後も仕事を続けられるということを知っていたら、技能実習生は病院に行くことができます。国がその通達を出しているのですが、現実はそうなっていないのです。それどころか、監理団体は交際したら不利益がある、妊娠したら帰国させると指導していました。権利であるはずの保険証も作ってもらっていない、言葉がわからなくて病院で説明できない、費用を払えないなどの問題もあり、技能実習生が妊娠しても医療を受けられるようになっていないのです。 実習生を労働力としか見ていない 職場や監理団体は技能実習生を労働力としてしか見ていません。実習生の生活や人権保障、労働実態に無関心で、妊娠出産をマイナス要因として対応しています。その結果女性は孤立出産に追い込まれ、自分の命とこどもの命を死の危険にさらしてきました。 Gさんは、結審後の報告会で「死産したとき私は怖くて悲しかった。体がきつくて何をしたらいいかわかりませんでした。私は自分のこどもを棄てるという考えはなかったので無罪を主張しました。私は妊娠中の外国人労働者が保護されるようになり、一人で出産する女性が逮捕され罰せられるのではなく、保護され、助けられるようになってほしい」と、自分のみではなく、今後の実習生のためにも裁判をやっていると述べました。 Gさんが三〇週で死産したこどもは、皮膚もできてないどろどろの血が垂れる状態であったため部屋にあったビニールに入れて手元にあったごみ箱に置いたのです。多量に出血し貧血で何度も気を失いながら、判断力も気力も失せ、自分はもう死ぬかもしれないと何度も思ったと言っています。交際相手の部屋なので死体遺棄も隠匿もできるわけがありません。 法的には、孤立出産後の遺体をどこに置いたら遺棄や隠匿に当たるのか当たらないのかの基準がなく、立件も検察の裁量に任されています。実習生の生殺与奪の権が裁判所に握られています。同じ死産や流産でも、病院で産めば罪に問われませんが、病院以外で孤立出産したら死体遺棄や隠匿だとして技能実習の女性を立件するのです。検察の立件が、妊娠した実習生を有罪にして帰国させるという慣例を補強しようとしているかのようです。 Gさんは逮捕後五カ月も拘留され、七月に保釈金一五〇万円で保釈されました。実習生は働ける期間が決まっているので、五カ月も拘束されれば、仕事に就ける期間が減っていきます。期間更新の手続きも拘留されていては一人ではできず、職場や監理団体のサポートが必要です。監理団体と受け入れ先企業は、逮捕を理由に実習生の受け入れを拒否し、権利を守るはずの実習機構も協力を拒否し、Gさんは職を失いました。しかし支援団体の奔走で実習期間の延長や三カ月後に新しい受け入れ団体を探すことができ、なんとか仕事を続けることができています。 裁判闘争に勝利しよう 孤立出産した技能実習生に必要なことは逮捕して刑事罰を科すことではありません。支援と保護、医療です。ところが警察は孤立出産(死産)を犯罪視し、検察は、死体を遺棄し隠匿したとして技能実習生の女性を立件することが続いています。有罪になれば、職場は実習受け入れを中止し、帰国させます。実習生を孤立出産に追い込んできたのは、技能実習制度と入管庁や監理団体、検察、裁判所ではないでしょうか。孤立出産で死体遺棄したとして逮捕して有罪にし、仕事の継続をできなくさせています。日本で就労するために多額の借金をして来日している実習生の女性にとって妊娠―実習の中断は借金を返せなくなることです。日本では妊娠出産を理由とする解雇や不利益取り扱いは禁止です。それを技能実習生には適用せず、妊娠した技能実習生女性は実習を中断し帰国を余儀なくされています。 技能実習生の女性には妊娠を誰かに相談すること、出産するか中絶するかを自分で決めること、病院でのケアを受けること、男女交際すること、結婚すること、家族との同居をすること、こどもとくらすことなどのすべての権利を奪われ、八方ふさがりな状態におかれています。実習制度は、借金を盾に取り、女性の産む産まないを選択する権利を奪うものになっています。女性を権利を持った人としてみるのではなく労働力としてだけ利用するものです。妊娠したら帰国と言われていたら、誰かに相談する選択肢はなくなります。しかも健康保険の説明もなく、中絶したくても男性の同意が必要な日本の制度のもとではそれもできず、言葉の壁で病院での説明も難しい。中絶もできない、出産もできない、病院にもかかれない、すべての権利を奪われた結果が孤立出産であり、実習生の女性は被害者なのです。技能実習制度についての日本政府の通達が絵に描いた餅ではなく、妊娠出産したら監理団体や会社に相談してサポートを受けることができ、病院にかかり、出産するか中絶するか決めることができ、その後も仕事を継続することができるような制度でなければなりません。 Gさんは無罪です。福岡地裁の判決日は三月七日です。 |
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